
小中学校からキャリア教育
小中学生が仕事への理解を深め、生き方を考える「キャリア教育」が全国で広がっている。夢に向かって学ぶ意欲を高めることを目的とし、将来就いた職業とのミスマッチを防ぐための効果を期待する。ただし、小中学校の段階で、職業の選択肢を狭めないように注意する必要はあると考える。
そもそもキャリア教育とは、2020年度から小中学校で実施されている現行の学習指導要領に明示されたのである。その目的は、「社会的に自立するため、必要な能力や態度を育てる」としている。つまり、子供たちが様々な職業に触れ、自分の興味や関心を知り、どう生きていきたいかを探究するものである。
このような方針が打ち出された背景には、これまで中学校や高校では受験を意識した指導を中心に行い、子供たちが社会に出た先まで考える機会が非常に少なかったことが要因としている。しかし小中学校ではキャリア教育の授業は設けておらず「充分な時間を確保するのは難しい」とする教員の声は多いのが現状だ。学校で職場体験を手配すると、職種が限られがちになるという悩みもある。ある程度の知識や能力が必要であったり、危険が伴う作業だったりする職場には生徒を向かわすわけには行かないということである。学校現場がこうした課題を抱える中、企業が支援に乗り出したのは大きな期待を寄せるばかりである。
様々な業界で働いている社員は、自己の経験を知ってもらい、働く意義を考えさせる出前の授業を無償で行う。そして仕事に対して前向きな意識やイメージを持てるようになってくれればと語る。また企業側も、これに携わった社員の9割が働き方を改めて考えるきっかけとなったとし、社員の成長につながったと答えている。
このように記すと良いことばかりに思えるが、前述したように小中学生が早い段階で職業選択の視野が狭まり、広く色々な職業に目を向けられなくなることに対しての懸念感は否めない。歌が好きだから歌手になる。ストレートな選択で決して悪くはないのであるが、「歌が好き=歌手」ではなく、作曲家や作詞家、また舞台演出家といった関連する職業も視野に入れてくれれば、と願うところである。